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奈良や京都の寺社などで油のような液体がまかれる被害が相次いでいる。9日になり、東寺(京都市南区)▽橿原神宮(奈良県橿原市)▽安倍文殊院(同県桜井市)--で新たに発覚したほか、遠方の金刀比羅宮(ことひらぐう)(香川県琴平町)▽香取神宮(千葉県香取市)▽鹿島神宮(茨城県鹿嶋市)--でも模倣犯を思わせる被害が確認され、被害は16件に達する。警察当局は文化財保護法違反などの容疑で捜査を進めているが、対象が文化財だけに証拠物の採取は難航。寺社も警戒を強めるが「信心を持って訪れる人を疑いたくない」との声もあり、対策は容易ではない。【小坂剛志、芝村侑美、松本博子、花澤茂人】
【写真特集】奈良・長谷寺の被害 本尊の十一面観音菩薩立像にも
もっとも被害の多い奈良県内では11カ所の被害が確認された。いずれも油のような染みが床や壁、仏像などに残っていた。「ヘアトニックのようなにおいだった」と証言する寺関係者もいる。
この問題が報道され始めたのは今月4日。奈良県警などの調べでは、犯行の多くは3月28日ごろから今月9日までの長期にわたっており、模倣犯の可能性も含めて捜査している。ただ、防犯カメラがなかったり、故障したりしていた寺社も。成分検出に必要な量のサンプルが採れないなど、文化財ゆえの壁にも直面している。
今後、被害を受けた文化財の修復は、警察による成分分析などを待って行うことになる。元興寺文化財研究所保存科学センター(奈良県生駒市)の植田直見・研究部副部長によると、油分に合う溶剤を湿布して染み出させるといった処置が考えられる。
ただ、植田副部長は「修復で文化財を傷めないよう予備的な実験も必要。木材の内部へ染み込んだものまでは除去できない。表面に顔料がある場合は更に条件が厳しく、慎重な検討が求められる」と指摘している。
被害拡大を受け、文化庁は8日、防犯の強化や被害があった際の連絡体制の確認を求める文書を各都道府県教委に出した。国宝の御影(みえい)堂など5カ所で油のような液体がまかれた世界遺産の東寺では、普段から警備員が6人体制で境内を見回るが、今回の事件を受けて巡回の回数を増やした。境内に約60カ所ある防犯カメラの映像も警察に提供したという。約20カ所に油のようなものがまかれた世界遺産・二条城(京都市中京区)でも、これまでは城の案内係の職員が見回りを兼務していたが、4月からは制服を着た警備員を巡回させている。
ただ、寺社は人々に開かれた信仰の場で、寺側にジレンマもあるようだ。被害に遭った飛鳥寺(奈良県明日香村)の植島宝照住職は「信仰などで多くの人が訪れる以上、来ていただいた方々を疑いの目で見たくない」と漏らす。
◇横浜市内発着の電車の切符確認後
昨年8月に横浜市で行方不明になった認知症男性(当時83歳)が東京都中野区で倒れて救護されず死亡した問題で、男性は横浜市内発着の電車の切符を持っていたのに警視庁中野署が神奈川県警に身元照会をしなかったことが警視庁への取材で分かった。遺体発見後、別の警察官が行方不明者届の全国データベース(DB)を検索したが、男性と一致しない年齢幅で調べたため身元を特定できなかったことも判明した。
【認知症と見抜けず】倒れていた認知症男性、消防や警察は保護せず2日後死亡
男性が持っていたのはJR菊名駅(横浜線)発、鶴見駅(京浜東北線)行きの切符。駅に入る際に改札で開けられるパンチ穴があったという。男性は行方不明になった8月19日、この切符を券売機ではなく窓口で購入して菊名駅に入り、いずれかの駅で降りた際に改札に通したり駅員に渡したりせず所持したまま駅構外へ出たとみられる。鶴見駅は男性宅の最寄り駅で、帰宅しようとした男性が電車や降りる駅を間違えて中野にたどり着いた可能性がある。
◇不明者全国DB 別の年齢で検索
警視庁によると、21日午前に男性と接した警察官は、所持品の切符に神奈川県内の地名があったことを記憶しているが、当時は男性の受け答えなどから不審点はないと判断して身元照会を行わなかったという。男性は警察官に正確な氏名を答え、住所は答えず、生年月日は本来の「昭和6年2月4日」ではなく「昭和26年2月26日」と答えていた。遺体の身元を調べる担当者は9月下旬~10月上旬にこのやり取りを把握。11月に全国DBを検索したが、年齢幅を「50~70歳」などとして調べたため、行方不明者届と一致できなかった。全国DBは氏名だけでは検索できず年齢が必要といい、警視庁は男性の見た目が若く自称の生年月日も当時63歳に当たるため、83歳と一致する年齢幅で検索しなかったとしている。
男性は昨年8月19日夕に横浜市鶴見区のデイサービス施設から行方不明になり、21日午前に中野駅近くで倒れていたが、駆け付けた救急隊と警察官は救急搬送や保護をせず、公園で2日後に死亡。身元不明遺体として扱われ、家族が今年2月に警視庁ホームページで所持品や特徴が一致する遺体情報を見つけるまで、警視庁は身元を特定できなかった。
男性の長女(51)は「切符を見つけていたのにどうして神奈川県警に聞かなかったのか。正しい氏名が分かっても身元を調べられない検索システムは改善してほしい」と話す。警視庁は今回の事例を教訓に「氏名が判明している人は年齢幅を広く取って照会(検索)していくよう指導した」としている。【山田泰蔵、銭場裕司】
石川県白山市の物流会社工場で、住所・職業不詳の水上龍さん(38)の遺体が見つかった事件で、県警捜査本部は8日、富山市星井町、無職、小西礼訓(あやのり)容疑者(44)ら男5人を死体遺棄容疑で逮捕したと発表した。更に別の男1人を同容疑で指名手配した。捜査本部が逮捕状を取って行方を追っていたところ、小西容疑者らが那覇市の沖縄県警本部に出頭するなどした。他に複数人が関与した可能性があるとみて調べている。
【地図】連れ去りが目撃された場所は? 遺体発見現場は?
他に逮捕されたのは▽白山市の会社役員、田中宏和(38)▽石川県小松市の会社員、清水茂(58)▽白山市の会社員、馬渕昭雄(41)▽金沢市の会社員、岩崎光男(37)の4容疑者。指名手配されたのは菊池寛一容疑者(39)。
田中容疑者は容疑を認め、他の4人は否認している。
逮捕容疑は、今月3日ごろ、白山市橋爪町の工場建物内で、放置した車の後部座席にシートにくるんだ水上さんの遺体を遺棄した、とされる。死因は頭部打撲による外傷性くも膜下出血と、背中を刺されたことによる失血死だった。
遺体発見前日の2日深夜、同市内の路上で、水上さんとみられる男性が複数の人物に車で連れ去られるのが目撃されていた。【中津川甫】
親指の下を、笑顔のアイドル達が高速スクロールで駆け抜ける。ピピッと来た子がいたので、反射的にスクロールを止めた。顔をじっくりと見る。「うん、かわいい。応援しよう」
【グラフ:2010年以降のアイドル市場】
アイドルアプリの「CHEERZ」を使い始めてからというもの、これが日課になった。「50代のオッサンが何してんねん!」とつっこまれそうだが、日めくり感覚でかわいい女の子の写真を見るのは、悪くないものだ。
CHEERZは、アイドル達がスマホで自分撮りした写真を投稿するメディア。同時に、投稿写真の閲覧機能を提供するアプリの名称でもある。登録してある約300名のアイドルは、日々CHEERZに写真を投稿している。一方、ユーザーは“推し”の子に対し「CHEER」ボタンをタップして応援することができる――そんな仕組みのアプリだ。多くの支持を集めたアイドルは、ランキングが上がり露出が増える。
とりあえず無料で使え、アイドルの日常を垣間見ることができることから毎日立ち上げているCHEERZだが、使っているうちに、誰が何の目的でこのアプリを作り、どうやって儲けているのか、俄然興味がわいてきた。アイドル系ビジネスというと、握手会や投票券付きCDでお馴染みのAKB商法しか思い浮かばない筆者だが、このようなアイドル系アプリがどうやってビジネスとして成り立っているのか? CHEERZの運営会社であるフォッグに出向き、このアプリやアイドルビジネスの現状を根掘り葉掘り聞いてきた。
●日本のアイドル市場規模は863億円
CHEERZの詳細に迫る前に、現在のアイドル市場を俯瞰(ふかん)しておこう。図2のグラフからも分かるように、アイドル市場は2010以降年々拡大している。2013年の市場規模は863億円で前年比19.9%増。これがどの程度の規模なのかというと、Jリーグの営業収入総額が794億円、スマホやタブレットのアクセサリー(ケースなど)市場が802億円。アイドル市場も規模としては立派なものだ。ちなみに、音楽制作業を営む筆者は有料音楽配信市場で収入を得ているが、2013年の同市場の総売上は417億円と、アイドル市場の約2分の1にも満たない。
この数字には、AKB48グループ、ももクロ、電波組.incといったビッグネーム達が産み出すビッグマネーが含まれているので、当然と言えば当然なのかもしれない。ただ、グラフをご覧頂くと分かるように、2010年からの4年間は毎年10~15%程度で、右肩上がりの伸びを示している。ちなみにグラフの2014年以降は、この延び率を維持したまま成長すると仮定した場合の筆者による予測値だ。東京オリンピックの年には、3000億円を達成する計算になる。
現在のアイドル市場の賑わいぶりを「ビッグネームが稼いでいるだけだろう」とは言い切れない。AKB48のブレーク以降もたくさんのアイドルが誕生しており、撮影会、ライブ、握手会といったイベントでファンがお金を落としている。こうした小さなお金の積み重ねが、市場規模を底上げしていると想像できる。
●ファンは、平均で1年間に9万4738円をアイドルに使っている
矢野総合研究所の『「オタク」市場に関する調査結果 2014』によると、アイドル市場におけるファン1人あたりの年間平均消費金額は9万4738円。オタク市場の中では最も高く「アイドル市場においてはこうした一人あたりの消費金額の高さも市場拡大に貢献しているものと推察する」と分析している。
そんなアイドル市場において空白地帯だったのが、スマホアプリのジャンルだ。個別のアイドル系ゲームやプロモーション目的のアプリは存在したが、アイドルという存在を束ねてビジネスとして回す、プラットフォーム的なものはなかった。
そこに登場したのが、DeNAが2013年12月にリリースした「Showroom」というアプリだ(参考記事)。「インターネット上でアイドル・タレントと一緒に遊べる生放送の仮想ライブ空間」というキャッチコピーからも分かるように、アイドル版のニコ生といったサービスである。次に登場したのが、サイバーエージェントのグループ会社が開始した「755」というトークアプリ(参考記事)。アイドルを中心に「芸能人・有名人の返信率92%以上」とうたった派手なテレビCMで話題をさらった。サイバーエージェントの藤田晋社長、堀江貴文氏、AKBグループの総合プロデューサー秋元康氏がタッグを組んでおり、2014年12月に始まったばかりだが広く認知されダウンロード数も伸びており、アイドルプラットフォームとしてはすでに大きな勢力といえる。
●Twitterへのアップロードは資産を無駄に垂れ流しているに等しい
この2強に続けとばかりに、昨年末にサービスを開始したのがCHEERZだ。運営元であるフォッグ株式会社CEOの関根佑介氏は「単なるアプリではなく、プラットフォームを作りたかった」と明かす。ただし、最初からアイドルビジネスを狙っていたわけではない。課題を抱えかつ、これから成長する市場でプラットフォームになり得るビジネス探すと探すとアイドルに行き着いたそうだ。最初に「プラットフォーム作り」ありきでの起業というわけだ。
では、アイドル業界はどのような「課題」を抱えているのか。たとえば「撮影会でアイドルとチェキに収まるだけで3000~5000円を課金しているのに驚いた。その一方で、アイドルたちはTwitterやInstagramに自分撮り写真をアップロードしている。これは資産を無駄に垂れ流しているに等しい。アイドルの自分撮り写真をもっと有効に活用する仕組みを作るべきと思い立った」(関根CEO)そうだ。
Twitterなどの一般的なソーシャルメディアと比較して、CHEERZはこの「課題を解決」しているのだろうか。「一般的なSNSは、写真を投稿してもフォロワー、つまり現行のファンにしか届かない。ファンの枠を広げる難しさがある」が、CHEERZであれば「数万人のアイドルファン、アイドルオタクが集っているので、自分のファン以外の人の目に止まる」(関根CEO)点が有利なのだ。つまり、アイドル側からすると、ファンの獲得において、投稿の効果を高めることができる、というわけだ。
ただ、ここで1つの疑問が首をもたげる。アイドルが好きな人は、「○○が好き」と特定のアイドルを“推す”のであって、それ以外のアイドルが現れるアプリに興味があるものだろうか。いくら300人のアイドルが集まっていても、そこに推しの子がいなければ、ファンにとっては、意味のないアプリではないのか。
この疑問に対し関根CEOは、「複数のアイドルを掛け持ちで応援するファンがいる」と教えてくれた。アイドルという存在に対し常日頃からアンテナを張り感度を高め、好みの子を見つけるとライブや握手会に出かけて応援する。そのようなアイドルファンがいるというのだ。CHEERZは、そのようなファンの「応援」パワーを集めるプラットフォームになろうというもくろみなのだ。
●ファンランキングでユーザー同士を競わせる
CHEERZにおける「応援」の仕組みについて触れておこう。応援したい子の写真画面で「CHEER!」ボタンをタップすることでその子にポイントが加算される。ポイント数に沿ってランキング付けされるので、応援している子の順位を押し上げたければ、「CHEER!」しまくるしかない。ただ「CHEER!」のポイント数には限りがあるので、ポイントがなくなると、回復するまで待たなければならない。
回復するとアプリを立ち上げ、再度「CHEER!」することができる。これを何度も繰り返すことで応援する。この仕組みにより「CHEERZのR/R(リターンレート、ユーザーの回帰率)はかなり優秀」(関根CEO)なのだという。
もっと熱心に応援したければ、ポイントを購入することで“推し”の子にポイントを一気に投下することもできる。最初に「CHEERZは無料」とお伝えしたが、一応、このようなアドオン課金の仕組みがあるので、正確にはフリーミアムモデルに分類される。当面の収益は、このアドオン課金から得ているのだが、その詳細は後述する。
熱心なファンがポイントを買いたくなる巧みな仕掛けも用意している。各アイドルのページに「ファンランキング」と呼ばれる、ファンの応援度を示すランキングがある。当然ながらたくさんのポイントを投下したファンほど、ランキングが上がり、ファンとしての忠実度や存在感を示す場にもなっている。それだけでなく、たとえば、ライブや握手会などで、アイドルにリアルに面会したときに「ファンランキング」の画面を示し「この1位は私です」と、自分をアピールするツールにしている例もあるという。
AKB48の投票券付きCDの場合、推しメンの順位を上げるために1人で数十枚、数百枚のCDを購入する例もあるだけに、このようにお金を注ぎ込む行為は、ファン心理として珍しいことではない。それにしても、アイドルファンというのは、なんと健気で純粋な人達なのだろうか。1000億円に迫ろうかというアイドル市場は、このような人達に支えられているのだろう。ちなみにCHEERZの応援ボタンで課金する仕組みは、ビジネス特許出願中だそうだ。
●ランキング上位の子には、海外フェス進出や写真集のご褒美
一方、アイドルの側にもインセンティブが用意されている。フォッグでは、リアルへの進出、つまりアプリ外の活動を後押しするイベントや企画を積極的に実施している。たとえば、ファミマ・ドット・コムの協力でフォッグが3月14日に発行した「CHEERZ BOOK」という紙の本がある。これはアプリ内のランキング上位の子を写真家が撮り下ろしたグラビア写真集だ。「リアルメディアに自分が掲載されることはアイドル活動の大きな励みになる」(関根CEO)からだ。
また、広告ジャックという形で、原宿の竹下通りにある人気アパレルショップ「Momo」の巨大ウインドウ看板にランキング上位の子を登場(4月13日以降の予定)させるなど、「アプリだけでなく、リアルメディアへの露出の機会を設けることでプラットフォームとしての価値を高めることができる」(関根CEO)という狙いがある。
この他にも、タイ、米国、フランスで開催される海外フェスでの活動支援、音楽情報サイト「ナタリー」の記事を買い取ってのインタビュー出演といった、アプリ外での活動の場をフォッグが企画して提供している。その狙いは的中し「リリースして4カ月だが、アイドル業界でのCHEERZの存在感が日増しに上がっていることを実感している」(関根CEO)そうだ。
これら数々のアプリ外の仕掛けを見ると、CHEERZはアイドルのプラットフォームを本気で取りに行っていることが伝わってくる。だからこそ、ここに参加するアイドルにも「本気」を要求している。「アマチュアは参加できない。一応、事務所に所属していることが条件で、弊社営業担当が個別に話をして参加の可否を判断している」(関根CEO)というだけに、一定の基準を満たす本気アイドルだけが参加を許されている。また、ファンが購入した有料ポイントからの「CHEER!」の一部をレベニューシェアする形でアイドル側に還元しているという。
●1年間は収益は考えないで運営する
アプリのダウンロード数やアクティブ率は「非公開」なので、現状、ポイントのアドオン課金からどれだけの収益を上げているのかを外部からうかがい知ることは難しい。ただ、グラビア写真集の制作、巨大ウインドウ看板への登場、海外フェス進出など、アプリ外での展開にかなりのお金を注ぎ込んでいることは想像にたやすい。「課金収益の2倍程度の費用をイベントに回しており現状は赤字」(関根CEO)だそうだ。
ただ「1年間は、転換社債で調達した5000万円と借り入れ(金額は非公開)で運用し、収益は考えない。アイドルプラットフォームとしてトップを目指す限りは、広告収入など中途半端な利益を追いかけていてはだめ、親会社もそれは理解している」(関根CEO)と言い切る。親会社は、東証マザーズ上場のユナイテッドだ。ユナイテッドは、スマホのホーム画面をデコレーションするコミュニティー「CocoPPa」が有名。関根CEOは、プロデューサーとして「CocoPPa」の大ヒットを産み出した立役者だ。フォッグは、ユナイテッッドの社内スタートアップ支援制度を活用して創業した。
「1年後の黒字化を目指しているが現状の数十倍の売上げが必要」(関根CEO)だというが、ポイント収益だけでそれは可能なのだろうか。そのためには、アイドル市場が今よりもさらに拡大するという前提で、登録アイドル数とアプリのユーザー数を飛躍的に伸ばすことが必要になる。
また、アイドル市場がいくら成長しているとはいっても、海外にも目を向ける必要があるだろう。まるっきりドメスティックな状態ではパイが限られる。関根CEOは、そのあたりも視野に入れているようで、3月からアプリの海外展開(現時点で英語と中国語に対応)も開始する。海外フェス進出もその一環だ。
●アイドルアプリの可能性
その上で、アイドルプラットフォームとしてナンバーワンになれば、ポイント収益だけでなく、他のビジネス展開も可能になるだろう。そのあたりの詳細も聞いたのだが、残念ながら教えてはくれなかった。
1つ心配なことがある。エンタメ系のビジネスというのは、労働集約(注:人間の労働力による業務の割合が大きい)的な側面が多分にある。アプリ以外にもビジネスを広げた場合に、労働集約型に終始していたのではプラットフォーマーとしてスケールアウトしない。CHEERZも今後、掛け算型のビジネスをどの程度生み出せるかが勝負となるであろう。
また、アイドルのプラットフォーマーとしてアプリ外へ積極的に進出した場合、そこで展開するビジネスが、既存事業者(芸能事務所や音楽業界など)のビジネス領域を侵すようなことになれば、反発を招くことにもなる。そこに折り合いを付けながらIT事業者としてのフットワークの軽さを存分に発揮できるかどうかが鍵となる。
最後に意地悪な質問をしてみた。30年以上も音楽業界の末席で仕事をしていると、「ランキングはお金で買える」という噂はちょくちょく耳にするのだが……? 関根CEOは「それを一度許すとプラットフォームとしての価値が地に落ちてしまう。絶対にやらない」と語気を強めた。
[山崎潤一郎,ITmedia]
「今後も4Kを軸に事業展開していく」――NTTぷらら代表取締役社長の板東浩二氏は、4月9日の2015年度上期事業戦略発表会で同社がこれまで行ってきた4K配信の取り組みと今後の方針を語った。
【「ひかりTV 4K」のVODに対応する国内メーカー一覧】
同社のスマートTVサービス「ひかりTV」は2015年2月時点で300万会員を突破し、全98チャンネルのHD(ハイビジョン)化を完了。また、NTT東西の光回線とインターネット接続サービス「ぷらら」を組み合わせた光コラボモデル「ぷらら光」も提供している。
2014年10月に開始した国内初となる4KのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービスの番組数は、当初は120本ほどだったが、276本にまで増加した。ジャンルは映画、ドラマ、音楽、バラエティーなど多岐にわたり、「ハリウッド映画の4K配信はひかりTVだけだ」と板東社長は説明する。
現時点(2015年4月9日)で「ひかりTV 4K」のVODに対応するのは、シャープ「AQUOS」の7機種、東芝ライフスタイル「REGZA」の6機種で、2015年春にソニー「BRAVIA」の9機種、6月中旬にLGエレクトロニクス・ジャパン「LGスマートテレビ」の8機種、夏にパナソニック「VIERA」の9機種が対応予定。今夏までに計39機種が4K配信に対応することになる。
●4K IP放送は12月から 4K VODも2016年に700作品へ拡充
すでにトライアルを開始していた4KのIP放送は12月に実用化される予定だ。すでに提供中のひかりTV対応チューナー(STB)をファームアップするか、4K映像のIP放送対応チューナーを内蔵する4Kテレビを利用して視聴できる。放送チャンネルや編成内容、価格等の詳細は未定だが、「SDからHD画質にしたときも課金はしていない。個人的には有料は難しいと考えている」と板東社長は心中を明かした。提供開始を12月にした理由は、「NTTぷらら設立からちょうど20年となる節目の月であるから」。
現時点でシャープと東芝のテレビが「ひかりTV 4K」のIP放送に対応予定で、パナソニックも対応を検討している。そのほかの主要メーカーとも協議中だという。
合わせて、「ひかりTV 4K」(VOD)で地上波番組の見逃し配信および先行配信も4月10日より順次行う。見逃し配信の対象となるのは、テレビ東京のドラマ「不便な便利屋」、ドキュメントバラエティー「E-girlsを真面目に考える会議」、NHKの人形劇「シャーロック ホームズ 4Kスピンオフ(仮)」の3番組で、「E-girlsを真面目に考える会議」は先行配信の対象にもなる。さらに、2016年3月末には4KのVOD作品を700本に拡充する。
●4K映像作るクリエイターを支援 オリジナルコンテンツを強みに
NTTぷららは、4K作品のラインアップを拡充する上で、個人クリエイターや映像制作に携わる学生たちを積極的に支援していく方針だという。具体的には、映像制作関係者に必要な機材や編集機器を提供したり、優れた4K作品を表彰するコンテストを開催したり、クラウドファンディングで資金援助をしたりする。
同社でコンテンツを自作しないのかという質問に、板東社長は「個人的にはやりたいがまだまだ力不足なので、当分は共同制作かコラボレーションという形を取っていく」と答えた。機材の提供についても、メーカーと協力関係を築いていくという。
●「HDR」「MPEG-4 ALS」など、新技術への対応も
さらに、「ひかりTV 4K」は、「明るさ」「暗さ」をより忠実に再現する「HDR(High Dynamic Range)」や、オーディオ信号をひずみなく圧縮することでより高音質なサービスを提供できる「MPEG-4 ALS」などの新技術への対応も検討されている。
●スマホによって4Kが身近に感じる日も近い?
板東社長は2015年度も4K事業に注力していくと語ったが、現状では4K映像を視聴するユーザーは一部のアーリーアダプター層に限られている。NTTぷららは4K映像の視聴者数を非公開としているが、ピーク時の同時接続数は「数百人」で、「まだまだこれから」と板東社長は話す。
事実、一般家庭への4K認知度はまだ高いといえる状況ではないだろう。「まずは、実際に4K映像を見てもらうことが必要」と坂東社長は説明しており、家電量販店だけでなくドコモショップでも4K映像を流す試みをしているという。今後は大勢の人が集まるイベントでも積極的に4K映像を配信していく。4Kが名実共に普及していくには、ソフトウェアとハードウェアの両面での環境整備が求められる。
しかし、最近ではスマートフォンで4K動画が撮影でき、それをMHL接続で4Kテレビに映すといったことも可能になってきた。「そう遠くない時期に、スマホで撮影した4K動画をテレビで見るのが当たり前になっていくときが来る。そういったトレンドをいかにビジネスに取り込むかが重要だ」と板東社長は展望を語った。
●販売チャネル開拓に課題 光コラボやネット契約も狙う
発表会では、2016年3月末までの目標会員数をやや控えめな315万人に設定するなど、4K訴求が直接的にユーザー増加に寄与するとは考えていない節も見られた。新規会員獲得の鍵は「販路チャネルの開拓」だという。これまでは主に、家電量販店で「フレッツ光」を新規契約したユーザーのオプションとしてひかりTVを提供していたが、いつまでもこの販売方法に頼るわけにはいかない。光コラボモデルが会員獲得にどれほど影響するのかも「正直まだ分からない」という。板東社長は「今後はこれまで弱かったネットでの契約獲得も頑張りたい。例えばユーザー数の多いサービスと組むというやり方も考えられる」と意気込みを語った。
だが、販売チャネルの拡大に注力するのは、ほかのVODサービスも同様だ。2014年秋に国内上陸予定の「Netflix」も、「VOD市場の活性化という意味では歓迎すべきだが、全世界で5700万人もの会員を抱えているのが脅威なのは間違いない」と板東社長はコメントする。販路の拡大という面では他社との競争はますます激化しそうだが、ひかりTVはVODだけでなく、IP放送、ゲーム、音楽、電子書籍の配信、ショッピングなどあらゆるサービスを提供するプラットフォームとしての強みがある。まずは「4Kに対応した国内最大のスマートTVプラットフォーム」をうたうサービスの認知度を高めていく必要がありそうだ。