社会そのほか速
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
ただいまコメントを受けつけておりません。
「この手法は大学の物理の実験でも使うんですよ」。
昨年12月上旬、福島県立福島高校(福島市)で開かれた物理の勉強会で、県内から集まった高校生約35人に、講師役の東大生が半導体の性質を調べる実験について説明した。「東大生とはなかなか会う機会がない。少し身近に思えるようになった」と福島高校1年の山田竜也君(16)は目を輝かせた。
同校に協力し、東京から東大生を呼んだのは、一般社団法人「ふくしま学びのネットワーク」事務局長で、東大特任研究員の前川直哉さん(37)。教育情報会社「大学通信」によると、福島県は、高校卒業生に占める東大現役合格者数の割合が全国の中で低い。前川さんは、地域格差を埋めようと、東大生から学習方法のアドバイスなどを受けることで学習意欲を高める取り組みや、大手予備校の講師らによる「高校生無料セミナー」などを手がけている。
昨年3月までは、全国有数の進学校、私立灘中学・高校(神戸市)の教師だった。
自身も同校出身。20年前の1995年1月17日、灘高3年生の時、阪神大震災に遭った。自宅は無事だったが、両親が経営していた喫茶店が半壊。「大学受験は無理かな」と思った。
教師たちは自らも被災しているのに、同校に置かれた避難所の運営に奔走しながら、励ましてくれた。「形あるものは壊れるけれども、人が学んだことは壊れないし、なくならない」。教師の一人に掛けられた言葉が心に残り、東大を受験し、合格。教育に関心を抱き、卒業後、学習塾の講師を経て同校教師になった。
2011年の東日本大震災では、「人ごとではない」と、同校の有志の生徒を連れてボランティア活動に参加。被災地で子どもたちを支える教師たちの姿に、かつての恩師たちが重なった。「今、助けを必要としている場所で、あのときの恩返しをしたい」
同校を辞め、福島市に移り住み、地元の経営者や僧侶らと同法人を設立した。
大学受験に向けた学力を伸ばすだけでなく、原発や過疎など地域の直面する課題を解決する力も育てようと、昨年9月、東大の被災地教育支援のプロジェクトと連携し、「高校生社会活動コンテスト」を初めて開催。福島県内の高校生8グループが参加し、伝統芸能の保存グループの活動や、工芸品作りによる地域振興などを発表した。
9か月余り、福島の子どもたちと接してきた前川さんは、「震災後、多くの人に支えられてきただけに、学んだことを社会に還元するという気持ちが強い」と手応えを感じている。「その気持ちを実現していく手助けをし、若い世代が課題に立ち向かえるような力を伸ばしていきたい」