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教育は強制的だが必要…金八ブームは嫌い<下>

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教育は強制的だが必要…金八ブームは嫌い<下>

教育は強制的だが必要…金八ブームは嫌い<下> ――教師を取り巻く環境がとても厳しいことが著書から察することができます。この本を読むことで、教員になることに二の足を踏む人がいるのでは?

  「いや、そんなことは起きないと思います。私は『教育方程式』と名付けているのですが、世の中で教員を志望する方の多くは、『教育はかくあるべき』という、今の教育学者が唱える理論に沿った、教育に対する理想と夢を持っているのです。それは大切なことです。

  おそらく私の主張は、実際に教師になってみるまで理解できませんし、なったとしても理解できる人はそう多くないかもしれませんね。私自身は、教師になってすぐわかりました。教育には強制が入っていることや、生徒は勉強することを忌避していることに。ですから、教育は必要なことだが、必ずしも生徒には望まれていないと思いました。ところが、他の多くの教員を志望する方の中では、『金八先生』的なイメージが圧倒的に強いのです」

向き合えば理解し合える…「教育方程式」を疑う

 

  ――その点を踏まえて、著書では「わかっている教師」と「わかっていない教師」という括(くく)りで、教師のありようは論じていらっしゃいます。そのあたりに解決のヒントがあるように感じます。

  「教育の現場の問題の本質がわかっていないということは、ある意味、幸せなわけですよ。わかっていると、しんどいです。極めて逆説的ではありますが、現場の上司の立場からだと、わかっている教師の方が問題かもしれません。わかっていない教師なら、ちゃんとやってくれますから。

  私がこの本で訴えたかったことの一つは、『教育は強制的ではあるが、必要である』ということです。強制だからいけないとは考えません。あるカリスマ教師がいて、その方の実践家としての活動を私はとても高く評価していたのです。その方がこういうことを、おっしゃったのです。『教師が、素の自分をさらけだすことはよいことだ』と。私はびっくりしました。たとえ教師でなくとも、社会的な役割を持った人間が、1~2割はどうしても裏の顔が出てしまいますが、基本としては素の自分をさらけ出すのはおかしいと思うからです。ましてや教師が、そのようなことをしたら、生徒や親には受け入れられませんし、へたするとクビになってしまいます。私自身、教師として自分の本心を話したことはまずありません。近代的な建前しか話しませんでした。それが教師の基本だからです。

  生徒の方は、教師のことを8~9割がた、ただの教師として見ていて、個性を持った人間としては見ていません。それなのに、『人として互いに向き合えば、教師と生徒は理解し合える』という、事実ではない教育方程式がいまだに根強く教育学界に残っているのです。そうした教育方程式を疑うようにならないと、学校の現場はよくならないと思うのです。私は、金八先生は嫌いではありません。自分を金八先生だと思っている教師や世の中の金八ブームが嫌いなだけです」

  (終わり、聞き手・構成 メディア局編集部 二居隆司)

プロフィル諏訪 哲二<すわ・てつじ> 1941年、千葉県生まれ。東京教育大学文学部卒。64年に教師として着任して以来、埼玉県の公立高校で英語教師を務め、2001年、県立川越女子高を最後に定年退職。以後、「プロ教師の会」代表として、著作や講演などを通じて教育問題について積極的に発言を続けている。近著に、「『プロ教師』の流儀 キレイゴトぬきの教育入門」(中公ラクレ)。

 

 

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