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「イスラム国はピーク過ぎた」「中東はパラダイム転換期」「スンニ対シーア広がる」 中東専門家3人が議論

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「イスラム国はピーク過ぎた」「中東はパラダイム転換期」「スンニ対シーア広がる」 中東専門家3人が議論

 「イスラム国はピーク過ぎた」「中東はパラダイム転換期」「スンニ対シーア広がる」 中東専門家3人が議論

 

 
  THE PAGEが5日夜、配信したネット番組「生トーク 中東とどう向き合うか ~イスラム国から日本外交まで~」では、3人の中東専門家が、過激派組織「イスラム国」の現状や中東の混乱の背景などについて議論した。
 
  出演は、東京外国語大学教授の黒木英充氏、早稲田大学イスラーム地域研究機構招聘研究員の鈴木恵美氏、放送大学教授の高橋和夫氏。津田塾大学教授の萱野稔人氏、タレントの春香クリスティーンさんが司会・進行を務めた。

■イラク戦争とアラブの春

 [写真]生トーク「中東とどう向き合うか ~イスラム国から日本外交まで~」。左から、萱野氏、春香さん、鈴木氏、黒木氏、高橋氏

  現在の中東情勢は、シリア内戦が長期化し、昨年6月のイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国」の出現でさらに混迷を深めているようにみえる。黒木氏は、こうした情勢について「当初は宗派対立ではなかったかもしれないが、今は『スンニ派対シーア派』の構図が中東を覆い尽くしつつある」と分析する。
 
  鈴木氏は、混迷の一つの要因として「アラブの春」を挙げる。「アラブ騒乱で秩序が崩壊し、新しい秩序を模索しているところ。独裁者がいいとは言わないが、権威主義は国民の不満を押し込める。(アラブ騒乱によって)そのタガが外れてしまった」と語った。
 
  高橋氏もイラクを例に出して同様の見方を示す。「(イラク戦争で)フセイン政権を倒したツケが回ってきた。もともとイラクはまとまりが悪い国で、サダム・フセイン元大統領はホッチキスみたいなものだった。それを米国が外してしまい、イラクはバラバラになった」。

■イスラム過激思想の根源

  中東諸国と欧米との関係性にも変化が見える。鈴木氏は「中東はいまパラダイムの大転換期にある。いろんなものがガラガラと動きつつあることを頭に入れておくべき」と指摘する。例えば、アラブの春の影響で米国寄りだったエジプトがロシアや中国に接近する動きがあり、サウジと米国の関係性もシェールガス革命によって変わりつつあるという。
 
  高橋氏も「イラン革命以降はイランとアメリカとの綱引きだったが、アラブの春以降、イランと米国が近づいたり、今までの『分かりやすい構図』が崩れた」と語る。
 
  黒木氏は、イスラムの過激思想について言及。「イスラム教がまだ始まって間もない7世紀に、自分と意見が違うものをイスラム教徒と認めないという宗派が現れてくる。戦って殺してもいいんだという考え方で、18世紀のサウジアラビアの『ワッハーブ派』にもよみがえっている」といい、「いま起こっていることは時代錯誤やアナクロではなく、(イスラム教の)『非常に古い層』がぽっと顔を出している」と解説した。

ブランド化した「イスラム国」

  「イスラム国」は、残虐性と攻撃性でイラクとシリアにまたがる地域で支配を拡大し、世界を震撼させている。「『イスラム国』はいまやブランド化してしまった」。鈴木氏はこう分析する。「(イスラムでも)とんでもないと言っている人がほとんどだが、一部の人に訴えかけるものはある」。その理由は、彼らが「カリフ制」をうたっている点にあるという。カリフとは、イスラム教の預言者ムハンマドの後継者を意味し、「イスラムに本来あるはずの指導者」だ。そのため「カリフと名乗ってしまうと、一定数の人には惹きつけるものがある」のだという。
 
  そんな「イスラム国」だが、高橋氏は「勢力拡大のピークは過ぎた」と見る。「軍事面では明らかに劣勢で、経済面でも安定収入だった石油が米国の爆撃などで苦しくなってきた。ここまでブランド化したのは戦闘に勝ってきたからだが、だんだん撤退を始めている。そうなると、これまでのように人を集められるのか」。

■「方針転換」した?日本政府

  議論は日本人拘束事件をめぐる安倍政権の対応にも及んだ。首相の中東歴訪が影響したと批判する声もあるが、鈴木氏は「人質を取られた時点でアウトだった。それをたまたま安倍首相が来た時に使われてしまった。安倍首相が行ったから、ということではない。それぐらい『イスラム国』は手強い」との見方を示した。
 
  黒木氏はそれとは違う見方を示す。「イスラエルのネタニヤフ首相と並んで安倍首相が『テロとの戦いに取り組む』と言った。これは広くアラブの人たちに『やはり日本はそうだったのか』と思わせるものだった。長期的には大きな問題になる」と懸念した。
 
  これまで日本は身代金を払う国だと見られていたが、高橋氏は、政府の「方針転換」への説明が必要だと語る。「おそらく日本政府は身代金は払わないという方針を選択した。それがいいことかどうかは国民が決めること。払ったとしたら人質を取られやすくなるのも事実」とした上で、「指導者には『こういう政策でいきたい』と訴えていただきたい」と語った。

  今後、日本が中東とどう関わっていくかについては、3氏とも「非軍事的な関与」をベースとするべきとの意見で一致した。黒木氏は「日本には大戦後につくってきた『ブランド』がある。原爆を落とされても経済成長し、軍事的関与なしに中東にも関わってきた。だから日本人は信用できるといわれる。それがいま土台から崩れている。非軍事的でかつ中立的な関与は、決してずるいことではない」と訴えた。

■中東の「日常」も報道して

  高橋氏は、日本での中東論議の間違いは、何十か国とある中東諸国を十把一絡げにしてしまうことで、「アジアだからと言ってブータンと日本を一緒に語っているようなもの」だと指摘する。
 
  そして、マスコミ報道に対しては、「人質事件も大切だが、同時にイランの核問題は世界史的に重要な事件。こうした“大きな絵”も示してほしい」と注文。さらに、集中豪雨的に拘束事件を報道し、その後、中東のことをまったく報じないのでは、「日本の視聴者からすると、中東の人はいつも殺し合っているんだ、人質をとってるんだ」という誤解につながると懸念し、「中東の日常も伝えてほしい」と要望した。

 本記事は「THE PAGE」から提供を受けております。
 著作権は提供各社に帰属します。

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