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[フランクフルト 13日 ロイター] – 欧州中央銀行(ECB)は9日、量的緩和(QE)策に伴う国債買い入れを開始したが、市場関係者の間では思わぬ副作用への警戒感が広がっている。QEの結果、ドイツなどもともと経済が堅調な国で不動産価格や株価が急騰、バブルが発生するというシナリオが現実味を帯びている。
そうなれば、ユーロ圏加盟国の間で「金持ち国」「貧乏国」の格差が一段と広がり、欧州統合という大事業が揺らぐことになりかねない。
ECBは一見、自信を持っているようだ。原油価格の下落や銀行貸し出しの復活により、ユーロ圏経済はすでに回復しつつあるが、ECBは今回のQEにより、景気回復がさらに力強さを増すと考えている。
「景気が回復しつつある」という点がポイントだ。ECBがもし、成長が停滞し信用も収縮していた昨年、QEを実施していたなら、QEで生まれたマネーが実体経済に流れず、失敗に終わったかもしれない。
ユーロ圏のある中央銀行当局者は、QE開始について「ターニングポイントを狙って実施した」ことを明らかにしたうえで、QEは景気を一段と支援するとともに、インフレ率を押し上げるとの見方を示した。
国債を買い入れれば、各国政府の借り入れコストが低下し、市場金利は低く抑えられる。その結果、リスク資産への投資が増え、経済成長率が上昇すると同時に、ユーロ相場には押し下げ圧力がかかる。
しかし、今年に入って対ドルで12.5%下落したユーロ<EUR=>安のスピードと幅には、ECB当局者の多くにとっても不意打ちだったようだ。
<「成功し過ぎ」というリスク>
一部のECB当局者は、QEの結果、市場金利がマイナスに抑えられるリスクを懸念。ECB理事会メンバーのノボトニー・オーストリア中銀総裁は「成功し過ぎるという点が心配だ」と告白し「われわれはマイナス金利の影響を完全には理解していないのではないか」と述べた。
今月公表されたECBのスタッフ予想によると、現在マイナス圏にあるユーロ圏のインフレ率は、QEの効果で2017年には1.8%に上昇し、2%弱としているECBの目標とほぼ一致する見通しだ。
成長率は今年1.5%で、2017年には2.1%に上昇する見通しとした。昨年12月時点では今年の成長率はわずか1.0%と見込まれていた。民間エコノミストは、ユーロ相場の一段の下落を受けて、成長率とインフレ率はECBの予想を上回る可能性がある、とみている。
一方、刺激策を最も必要としていない国で、QEが成功し過ぎるというリスクが付きまとう。消費拡大が堅調なドイツでは、QEの影響で借り入れコストが低く抑えられ過ぎる、という問題が指摘されている。
一部のエコノミストは、QEはドイツには適当ではないかもしれない、との見方を示している。しかし、ECBの金融政策はユーロ圏全域に一律に導入されるため、ドイツだけ例外とするわけにはいかない。
独政府のアドバイザーは「ドイツでは潜在成長率を上回る状況もあり得る。しかし、通貨同盟において(金融政策は)一律だ」と述べた。
<脆弱国は財政健全化放棄も>
逆に、国債の確実な買い手が現れたことに安心し、フランスなどの経済が脆弱な国が、財政健全化努力を放棄するというリスクもある。
ワイトマン独連銀総裁は「悪い習慣につながりかねない。公的財政の健全化が必要なのに先送りする国が出ても、おかしくはない」と述べた。
ユーロ圏の「出遅れ」国が財政健全化を怠れば、将来的に借り入れコストが上昇した際に債務返済負担が増し、長期的な景気回復が損なわれる可能性がある。ユーロ圏全体の成長が加速しQE縮小論が出るようになっても、多くの国がなおドイツに大きく遅れたままかもしれない。
ECBの元市場操作責任者フランチェスコ・パパディア氏は「QEがインフレと(経済)活動を支援すると想定しているが、その効果を正確に予想するのは難しい」と指摘。「不透明な部分が多いのは確かだが、QEをやらないほうがいい、ということではない。プラス面とマイナス面を考慮すると、やらないと状況はさらに悪化する」としている。
(Paul Carrel記者 翻訳:吉川彩 編集:加藤京子)