大阪市で５日開かれた第８７回選抜高校野球大会（毎日新聞社など主催）の運営委員会で、スリランカ出身のスジーワ・ウィジャヤナーヤカさん（３１）＝福岡県春日市＝が審判委員に選ばれた。春夏の甲子園で来日外国人が審判委員を務めるのは極めて珍しい。スジーワさんは「夢がかなう人生で特別な日。早く甲子園のグラウンドに立ちたい」と２１日の開幕を待ち望んでいる。
　
　　スジーワさんは中学まで母国で人気の高いクリケットの選手だった。高校で野球を始め、国の代表投手として国際大会にも出場した。卒業後、野球を続けながら銀行で働いていたが、大分県別府市の立命館アジア太平洋大（ＡＰＵ）に留学していた姉から日本の良さを聞いて休職。２００６年にＡＰＵに入学して野球部に入部した。
　
　　だが言葉の壁に苦しみ、野球のレベルの高さにも戸惑い半年で退部した。野球から遠ざかっていたが、０７年１２月、スリランカ時代に野球指導をしてくれた日本人男性に誘われて、宮崎市であった審判員の講習会に参加したことが審判の道に進むきっかけとなった。
　
　　審判歴８年目。高校から社会人まで約５００試合をジャッジしてきた。それでも「一つの判定で選手の人生が決まることもあり、難しい」と言う。だからこそ常に次のプレーを三つ、四つ想定し、選手や観客を納得させられるよう心がけてきた。
　
　　技術向上への熱心な姿勢に加え、社会人野球の都市対抗大会（１２年）、全日本大学選手権（１３年）といった全国大会での経験、母国で球場建設に尽力するなどアジアの野球の発展に力を入れてきたことなどを福岡県高校野球連盟が評価し、今回、審判委員として推薦していた。
　
　　日本行きを後押しし、甲子園に立つ夢をうれしそうに聞いてくれた母チットラターさんは１２年１１月、６０歳で病死した。１０年３月に初来日した際、センバツに連れて行った父ウィジャヤナーヤカさん（７４）も脳梗塞（こうそく）で倒れ療養中だ。
　
　　両親に直接晴れ舞台を見せることはできないが、「今までやってきたことを全部発揮して誰もが納得するジャッジをしたい。それがお父さん、お母さん、応援してくれたすべての人への恩返しになる」と力強く語った。【佐野優】