社会そのほか速
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大場洋さん 58歳 日本語学校講師
JR新宿駅に近い日本語学校「アークアカデミー新宿校」。講師の大場洋(ひろし)さん(58)が、十数人の若者に向かい、ピアノとギターが描かれたイラストを掲げた。
「私はピアノが特に好きです。特に、は一番のことですよ」。教壇に立ち始めて8か月。少しずつコツがつかめてきたところだ。
教え子の国籍は中国、タイ、フランス、ロシア、イタリア、アメリカと多彩。「先生、楽しかったです。ありがとう」。授業が終わり、たどたどしい日本語で話しかけられると、思わず笑みがこぼれた。
◇
元々は理科系だった。大学卒業後、東京の電子機器専門の商社に勤め、1995年に仲間と起業。ホテルの客室テレビなどを手がけ、取締役の一人として販路開拓や製品開発に国内外を飛び回った。
2011年に新天地を求めて転身し、昨年初めまで自宅近くの食品商社に勤めていた。この間、長女と次女は結婚や就職で家を離れ、残っていた三女も一昨年夏、留学でアメリカへ旅立った。寂しくなった居間で、妻と「最後はどっちかねえ」と笑いながら、ふと今後の生き方を考えた。
「このまま、営業が得意だったおじいさん、で死ぬのは嫌だな」。この時、留学の夢を実現させるため、寸暇を惜しんで机に向かう三女の姿が頭をよぎった。妻に「勉強して資格を取りたい」と相談すると、「私も一緒にやってみようかな」と言い出した。
様々な資格を調べるうち、日本語教師にひかれた。若者と話すのが好きで、企業の役員経験も生かせると考えたからだ。妻は他の国家資格を選び、健闘を誓い合った。
◇ ◇
13年1月、「アークアカデミー」の養成講座に入った。机に向かって勉強するのは大学時代以来で、最初は能率が上がらず、15分の模擬授業の指導案作りに1週間もかかった。しかし、隣の部屋で黙々と勉強する妻を思うと、「負けられない」と熱が入った。
1年後、夫婦ともに念願の資格を取得。57歳になっていた大場さんは母校に採用され、4月から非常勤講師になった。担当するのは、大学や専門学校を目指す留学生クラス。ビザの在留期間が決められているため、学生たちは必死だ。週2回の授業では、実践的な会話が早く習得できるよう、イラストなど教材作りも工夫を重ねる。
「学生たちが合格したよ、と報告しに来てくれたらうれしい」。目を細めて語るその表情は、“先生”そのものだ。(社会保障部 手嶋由梨)