社会そのほか速
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女性からのセクハラの訴えに対する男性の対応は、おおむね二つのパターンに分けられます。
その第一は、事実について全面的に否定するケースです。まさに「身に覚えがない。何か魂胆があってそうした虚偽の申し立てをしているとしか考えられない」などと反論するケースです。
第二は、事実をある程度認めたうえで、そんなつもりではなかったと主張するケースです。典型的には、「そんなつもりではなかったが、相手に誤解されてしまった」というものから、「成り行き」であることや、そこにはある種の「合意や同意」があった(と思っていた)と主張するものです。
第一のケースで、男性側の全面否定の主張が認められることは極めてまれなケースといえます。横山ノック元大阪府知事のケースでは、加害者とされたノック氏が全面否定をしながらも、出廷せずに有罪が確定したように、あくまで建前として全面否定はしたが、一切主張ができないというケースもよく見られます。
特に、初期のセクハラ裁判によく見られたケースですが、それまではこうしたことが訴えられることがなかっただけに、訴えられた男性側には説明を求められて、言い訳の言葉を失っているという状況がありました。
男性の側に「言い訳は不要だ」「それは違う」という思いはあっても、女性の訴えを全面否定する場合には、それなりのしっかりした説得力のある主張が必要になってくることは言うまでもありません。なぜならば、訴えることによって女性が抱えなければならない不利益が様々にあり、それにも拘(かか)わらず「やむにやまれず」訴えたという一般的な理解が背景にあるからです。
それは、性的なトラブルは一般的に女性にとっては大きなダメージのあることであり、男性にとってはそれほど大きなダメージにはならないという受け止め方が、依然として社会で多くされがちなためです。つまり、この種のスキャンダル(性的関係の吹聴や噂(うわさ)など)は、場合によっては男性にはモテる証しにさえなることもありますが、女性にとっては「傷もの」「ふしだら」などという表現もあるようにマイナスイメージが大きいことになりかねません。
そこで、一般的にはよほどの恨みや目的がないかぎり、そうした虚偽の訴えまでして相手を貶(おとし)めようなどとは考えないだろうということが、こうした訴えを見る前提になっているといえます。
レアケースであれ、女性の訴えが虚偽だとされたケースがないわけではありません。女性の内容証明による訴えが虚偽であり、名誉毀損(きそん)にあたるとされた裁判もあります。
この事例は、経理担当職員として勤務してきた女性が、会社の専務によりわいせつ行為、性的嫌がらせ等を受けたとして、会社と専務に対し、内容証明の送付によって慰謝料を請求した事件です(「セントラル靴事件」東京地裁H6.4.11判決)。
こうした訴えに対して、専務は女性の主張する事実は一切存在しなかったとして、逆に内容証明を送りつけられたことで名誉が毀損されたとして慰謝料を求めました。この裁判で、裁判所は、事実はなかったことを認めて、慰謝料30万円も認めました。
その理由は<1>女性が被害を受けたとする日のタイムカードに出勤の記録がないこと<2>専務が加害行為をしたとされる日時に自宅付近の健康センターに行っていたことを裏付ける証拠があること<3>当日出勤していた社員が、もし訴えたような事件があれば気が付かないはずがないこと――などが挙げられています。
つまり、行為者にアリバイがあり、被害者には証拠がなかったことから、男性の側の主張が認められたものです。このケースでは、密室での被害の立証の難しさと確固たる証拠がない限り、会社に性的嫌がらせの救済を求めることが不法行為になりかねないということで論議を呼んだ裁判です。
一般の刑事裁判同様、行為者にアリバイがあり、被害者がキチンと被害を立証できなければ密室での行為は認められないという当然の判決ですが、証拠だてるものが多くは会社側にあり(このケースでは出勤簿など)証人などがいない中で、訴える側に厳しい立証責任を求めるという困難な課題がテーマとなった裁判です。
(次回は2月17日掲載予定です)