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材料の特性は誠に多様で、発見が今も続く。今度は「温めると縮む」物性で新しい突破口が開けた。室温付近で既存材料の2倍以上の「負の熱膨張」(温めると可逆的に収縮する性質)を示すビスマス・ニッケル・鉄酸化物を、東京工業大学応用セラミックス研究所の東正樹(あずま まさき)教授らが見いだした。この新材料をエポキシ樹脂中に少量分散させて、熱膨張をゼロにできることも確認した。
図1. BiNi1-xFexO3の低温(左)と、高温(右)の結晶構造(提供:東京工業大学)
光通信やナノテクノロジーなどで、精密な位置決めが求められる局面に必要なゼロ熱膨張物質の作製や、高精度のセンサー材料などにつながる成果といえる。研究には、東京工業大学の大学院生の奈部谷光一郎(なべたに こういちろう)、村松裕也(むらまつ ゆうや)、北條元(ほうじょう はじめ)助教、中央大学理工学部の岡研吾(おか けんご)助教らが参加した。高輝度光科学研究センター、日本原子力研究開発機構、京都大学との共同研究で、2月12日付の米科学誌Applied Physics Lettersオンライン版に発表した。
図2. X線回折実験で求めたBiNi1-xFexO3の体積の温度変化(提供:東京工業大学)
図3. 体積18%の BiNi0.85Fe0.15O3/エポキシ樹脂の複合材料の写真と、その試料長さの温度変化。エポキシ樹脂の大きな熱膨張が新材料の添加で抑えられて、絶対温度300-320K(27℃-47℃)の範囲でゼロ熱膨張が実現している。(提供:東京工業大学)
大半の物質は熱で膨張する。光通信や半導体製造などの精密な位置決めが要求される場合、わずかな熱膨張が問題になる。そこで、昇温に伴って収縮する物質を加えて、元の構造材の熱膨張を打ち消している。しかし、こうした負の熱膨張を持つ物質の種類が少なく、市販品の負の線熱膨張係数(収縮)は、最高で温度上昇1度当たり100万分の40(-40×10-6/℃)と小さい。東正樹教授らは2011年に、温度上昇1度当たり100万分の82(-82×10-6/℃)という大きな負の熱膨張を示すビスマス・ランタン・ニッケル酸化物を報告していた。
今回の研究では、ペロブスカイトという結晶構造の酸化物BiNi1-xFexO3(ビスマス・ニッケル・鉄酸化物)を6万気圧の超高圧で新たに作製した。新材料の負の線熱膨張係数は、室温近傍の温度域で温度上昇1度当たり100万分の187(-187×10-6/℃)と、ビスマス・ランタン・ニッケル酸化物の2倍以上であることを確認した。
大型放射光施設SPring-8(兵庫県佐用町)のX線回折などで構造を解析した。その結果、この新材料は、低温でビスマス(Bi)が3価と5価で半々という特異な酸化状態にあるが、昇温すると、ニッケル(Ni)の電子1つが5価のビスマスに移り、ニッケルが2価から3価に変化して、酸素(O)をより強く引きつけることがわかった。この際、ペロブスカイト構造の骨格を構成するニッケルと酸素の結合が縮み、3%の収縮が起こる。この変化は徐々に起こるため、広い温度範囲にわたって連続的に長さが収縮することを突き止めた。
また、ニッケル(Ni)を置換する鉄(Fe)の量を変化させることによって、負の熱膨張が起こる温度域を制御できることを実証した。さらに、BiNi0.85Fe0.15O3の粉末をエポキシ樹脂に、体積にして18%分散させた複合材料を作ったところ、温度上昇1度当たり100万分の80(80×10-6/℃)というエポキシ樹脂の熱膨張を相殺し、27℃~47℃の範囲でゼロ熱膨張を実現できることも示した。
東正樹教授は「新材料を使えば、熱膨張抑制材として用いる量を半分に減らすことができるので、メリットは大きい。精密光学や精密機械の部品など、既存の負の熱膨張材料が担っている分野で活用が期待される。絶縁体-金属転移を伴うため、長さの変化を電気抵抗の変化に変換する高精度センサーへの応用の可能性もある。新材料は超高圧条件で作った。この製法を改良してコストを下げることが、工業化には課題となる」と話している。