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快感をもたらすコカインで薬物依存形成が起きる新しい仕組みを、北海道大学大学院薬学研究院の金田勝幸(かねだ かつゆき)准教授らが発見した。コカインの慢性投与で、脳の背外側被蓋核(はいがいそくひがいかく)の神経活動が上昇し、興奮性が増強していることを、ラットの実験で見いだした。この変化には、持続性ナトリウムチャネルが関与していて、これを阻害するとラットの薬物欲求を抑えることもわかった。薬物依存症の新しい治療目標に背外側被蓋核がなる可能性を示した。2月25日付の欧州科学誌European Journal of Neuroscienceオンライン版に発表した。
図. 薬物依存に関わる神経回路の模式図。背外側被蓋核ニューロンの活動が可塑的に増強して、最終的に腹側被蓋野のドパミン作動性ニューロンの活動が上昇して、薬物依存が形成されると考えられる。(提供:北海道大学)
麻酔や覚せい剤、危険ドラッグなどの乱用で、薬物摂取を渇望する状態の薬物依存に陥る。これまでの多くの研究によって、中脳のドパミン神経と脳内報酬系で、元に戻らない可塑的な変化が起きて、報酬系を過剰に活動させることが薬物依存形成の実体とわかっている。しかし、この報酬系を制御する別の脳部位での可塑的な変化の役割は謎だった。研究グループは、報酬系の活動を制御する部位のひとつの背外側被蓋核に着目して研究してきた。
ラットに数日間コカインを投与し、その後、背外側被蓋核にあるコリン作動性ニューロンの電気的活動を記録した。このニューロンが可塑的に変化して、興奮性が増強していた。この変化には、持続性ナトリウムチャネル電流の増大が関わっていることを突き止めた。背外側被蓋核にこのナトリウムチャネルの阻害剤を投与すると、ラットの薬物欲求行動が抑制されることも実証した。
背外側被蓋核コリン作動性ニューロンは中脳のドパミン作動性ニューロンに情報を伝達し、その活動を促進する。このため、新たに発見した可塑的変化は、最終的にドパミン作動性ニューロンの活動を上昇させ、薬物依存の形成につながる可能性が浮かび上がった。
金田勝幸准教授は「薬物依存への有効な治療法はまだ十分に確立されていない。われわれの発見は、薬物依存の理解を深めるのに重要で、背外側被蓋核での可塑的変化を抑えることが、新しい治療法開発の目標になるだろう」とみている。