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理化学研究所※と科学に対する国民の信頼を大きく損ねたSTAP(スタップ)細胞の論文不正問題。
発覚からほぼ1年を経て、理研は2月10日、小保方晴子・元研究員ら関係者4人の処分を発表し、STAP問題は決着したとの姿勢を鮮明にした。世界の3大研究不正の一つとまで言われたSTAP問題の教訓と、残された課題は何か。3回にわたって検証する。
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「これ以上、STAP問題は調査しない」「経営陣は組織改革を着実に遂行することで責任を果たす」。理研の堤精史(きよふみ)・人事部長らは、処分を発表した2月10日の記者会見でこう話し、問題に一応の区切りがついたとの見解を示した。
4件の不正が認定された小保方氏は「懲戒解雇相当」になった。理研在籍時に小保方氏を指導した若山照彦・山梨大教授は、実験データの確認が不十分だった責任を問われ「出勤停止相当」とされた。
小保方氏の監督責任者だった竹市雅俊・理研特別顧問は、STAP研究を秘密扱いすることを容認したとして「けん責」。論文共著者の丹羽仁史・理研チームリーダーは「厳重注意」になった。
実際には、小保方氏と若山氏は理研を退職し、処分できない。論文作成を指導した笹井芳樹氏(昨年8月に自殺)の処分の検討結果は公表しなかった。
理研は小保方氏への研究費返還請求や刑事告訴の可能性にも言及。1、2か月で結論を出す方針だ。小保方氏代理人の三木秀夫弁護士は「ノーコメント」とする。
理研が次に目を向けるのは、国が新設する「特定国立研究開発法人」の第1号となることだ。特定法人は「国の科学技術戦略を担うトップ研究機関」(内閣府幹部)との位置づけで、経営方針は閣議決定される。法人は破格の年俸を提示して、国内外から優秀な研究者を集められる。
理研は本来、産業技術総合研究所とともに、昨年の国会で指定が決まるはずだった。だが、STAP問題の影響で特定法人の新設に必要な法案の国会提出が先送りされた。
理研幹部は「特定法人の指定は、理研の存在意義にかかわる問題」と話す。1月、自民党の会合で、坪井裕・理研理事は「あとは(再発防止策と組織改革を)いかに実行していくかという段階にある」とアピールした。
理研が特定法人に向けた道筋を固める上で、不可欠なのが、昨秋以降、相次いで打ち出した再発防止策と組織改革に対する、第三者のお墨付きだ。
理研は、再発防止策の一環として、研究倫理研修を強化した。以前から、研究責任者を対象とした研修はあったが、小保方氏を含めて対象者の半数が受講しないなど、制度は形骸化していた。現在は受講義務を全職員に拡大し、受けない場合は、実験室への立ち入りを禁止した。
不正調査を進めやすくするため、実験ノートなどのデータは、原則5年の保管を義務づけた。
組織改革では、小保方氏が所属した発生・再生科学総合研究センター(神戸市)を大幅に改組し、研究室を半減させた。外部有識者による理研改革委員会が昨年6月、「センター幹部の責任意識が低く、組織に構造的な欠陥があった」として、センター解体などを提言したことを受けた。第三者の視点から組織運営の問題点を指摘してもらう「経営戦略会議」も新設した。
理研はこうした対応に関して、3月末までに前向きな評価を得ようと、財界の有力者や外部の研究者、弁護士を集めた「運営・改革モニタリング委員会」を新たに設置し、毎週のように説明を重ねている。
再出発を急ぐ理研に、課題はないのか。再発防止策を浸透させ、実効性を高めるかぎは、内向きと言われる理研の組織体質の改善だ。
理研改革委は昨夏、野依良治理事長ら経営陣の姿勢について「事実解明の積極性を欠き、責任の所在が明らかになることを恐れている」と厳しく指摘した。
理研は昨年末に公表した不正調査の最終結果で、STAP細胞は別の万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)だったとほぼ断定したものの、ES細胞混入の経緯は突き止められなかったとした。
だが、もっと早期に調査を徹底すれば、真相解明はもう少し進んだかもしれない。理研は当初、1か月半で調査を打ち切り、幕引きを図った。その後は「調査は不要」と、拡大する疑惑から目をそらし、結局、本格的に調査を再開したのは9月だった。
こうした経営陣の消極的な姿勢が、STAP問題の対応を混乱させたという批判は根強い。理研OBは「経営陣が何とかなると楽観し、徹底した調査が遅れたため、理研に大きな傷が残った。だが、誰も責任を取らない。なれ合いの経営陣が本当に組織の体質を変えられるのか」と語る。
経営陣は、給与の一部を自主返納しただけで、自分たちの責任問題にふたをした。野依理事長の記者会見は昨年8月が最後だ。理研広報室は「組織改革に取り組む最中で、理事長は取材を受けられない」とする。
再発防止策も心もとない。研究倫理研修は、インターネットで学習する「eラーニング」が主体。受講者は「一般的な不正防止ルールの説明を読んだ後に、クイズを解くだけ。この研修で不正が防げるなら苦労しない」と話す。
理研内に、他に研究不正が隠れていないかという調査も不十分だ。理研は研究者約3000人に、不正がないかの確認を求めた。だが、自主的な点検で報告義務はない。明らかになったのは、10件程度の表記ミスなどだけだ。
特定法人の指定について、自民党議員は「また同じような不正が出てこないと言い切れるのか。本当に大丈夫かを見極めたい」と話す。文部科学省幹部も「理研は、まず足元を固めることが大切だ」と慎重な見方を示す。再出発への道は険しい。(船越翔、冨山優介)
1917年に設立され、埼玉県和光市など13か所の拠点で、幅広い研究を行う。研究者、事務職員は合計約3700人で、2014年度予算は約834億円。
(2015年2月15日の読売新聞朝刊に掲載)