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天王山の麓に広がる山崎地域の大山崎町と大阪府島本町の住民らが、同地域を舞台にした自主映画の制作に取り組んでいる。両町は京都、大阪両市のベッドタウンとして人気が出ており、開発で豊かな自然が失われ、長い歴史を知らない人が多くなるとの危機感からだ。制作に携わる住民同士の交流も進み、地域の魅力を再発見する機会にもなっている。(佐藤行彦)
「初めてこの場所に来た感じの表情で」「探検するようにゆっくり歩いて」
3月中旬、大山崎町のJR山崎駅近くの路地。監督を務める島本町在住の会社員折小野(おりこの)和広さん(40)の声が響いた。主人公が町をさまようシーンの撮影。大役を務める大山崎町の自営業中村佳太さん(33)は「演技は初めて。戸惑いも多いけど楽しい」と笑顔を見せた。
映画のタイトルは「家路」。両町がモデルの架空の町が、ある出来事をきっかけに封鎖される。そこに行けば願いがかなうとのうわさが広まり、事故で妻を亡くし、息子も重体の主人公が我が子を目覚めさせようと町に入るストーリーだ。
きっかけは、大山崎町商工会が2012年に開いた地域活性化を考える会合だった。出席した折小野さんが学生時代に映画を撮った経験を話すと「宅地造成などで失われる風景を記録しては」との声が上がった。
山崎地域は天王山(270メートル)の裾野に広がり、戦国時代には「天下分け目の天王山」と呼ばれる、羽柴(豊臣)秀吉と明智光秀の「山崎の戦い」の舞台になった。淀川など3河川が合流する緑豊かな地で、1923年にはサントリー創業者の鳥井信治郎が日本初のモルトウイスキーの蒸留所を島本町に開設している。
一方で2年前には大山崎町と長岡京市の境の同市側に阪急西山天王山駅が開業。住宅地や事業所の造成が進み、昔から住む町民の高齢化による歴史や文化の継承が課題となっていた。
両町の住民らは「oYamazakiまちのこしプロジェクト」を結成。役者から制作陣まで20~60歳代のスタッフ十数人の大半は映画の素人だが、折小野さんの構想をシナリオ化し、昨年4月から月1~3回のペースで撮影を続ける。
ロケは大山崎町の離宮八幡宮や島本町の避暑地・尺代のほか、天王山麓の竹林や河川敷など住民が後世に残したいと考える場所でも行われている。協力する住民も増え、昨年末に撮影した結婚式のシーンでは約30人がエキストラとして集まってくれたという。
スタッフの大山崎町の三宅秀輝さん(64)は「映画作りは色々な人と知り合う機会になり、世代間の結びつきも強くしてくれた」と話す。折小野さんは「撮影のたびに山崎の新しい魅力に気付く。地元の風景を映画にちりばめ、未来に残したい」と意気込む。
映画は今夏完成し、秋には地元公民館などで上映の予定。制作費が不足気味といい、プロジェクトは28日まで寄付を募っている。問い合わせは担当の中村さん(090・5328・3488)。