【カイロ秋山信一】イラクのクルド自治政府は１４日、イスラム過激派組織「イスラム国」（ＩＳ＝Ｉｓｌａｍｉｃ　Ｓｔａｔｅ）が北部モスル郊外で、自治政府の治安部隊ペシュメルガに対して塩素ガスによる攻撃を試みた証拠を入手したと発表した。ＩＳは北部ティクリートでも塩素ガスを使用した疑いがある。塩素は工業用などに広く出回っており、ＩＳが塩素ガスを計画的に兵器化している可能性も出てきた。
　
　　自治政府によると、ペシュメルガは今年１月２３日、イラク北部モスルの東約４０キロにあるキスクの幹線道路で、爆発物を搭載してペシュメルガの陣地に向かってきたＩＳのトラックを砲撃し、運転手を殺害。トラックの爆発直後にペシュメルガの兵士らが吐き気や目まいの症状を訴えた。
　
　　ペシュメルガは現場から土壌を採取し、兵士の衣類などと共に欧州の研究機関に送って分析を依頼。その結果、現場近くの土壌の塩素ガス濃度は約２００メートル離れた地点に比べて著しく高く、塩素ガスが兵器化されて使用された可能性が高いことが分かったという。
　
　　ペシュメルガはイラク政府や米軍主導の有志国連合と連携し、イラクでの対ＩＳ作戦の中核を担っている。１月２３日の攻撃は、ペシュメルガが周辺で２日間に及ぶ攻勢をかけ、ＩＳの戦闘員２００人以上を殺害した後に起きた。トラックには塩素ガスが入っていたとみられるガス缶が積まれていたという。
　
　　ＩＳは、イラク政府側の攻勢を受けている北部ティクリート近辺でも２度、塩素ガスを使用した疑いがある。
　
　　自治政府はＩＳが劣勢になると化学物質を使う戦術をとっていると分析し、「無差別兵器の使用は極めて遺憾だ。ＩＳが主導権を失い、窮余の策をとっている証拠だ」と訴えている。
　
　　塩素ガスは第一次世界大戦で毒ガス兵器として使用された例があり、高濃度の塩素ガスを兵器として使用することは化学兵器禁止条約に抵触するとされる。被害者は呼吸困難などで死に至るケースもある。シリア内戦ではアサド政権側が再三使用した疑いが持たれているが、政権側は使用を否定している。