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消費者庁は2月20日、虫よけ商品(吊り下げるなどして使用する虫の忌避効果を標ぼうする商品)の表示が景品表示法違反(優良誤認=不当表示)に当たるとして、アース製薬、興和、大日本除蟲菊、フマキラーの4社に措置命令を下した。
景表法違反で措置命令が下された件数は、2014年度を見ると昨年4月から今年1月までが14件(12事案)だが、同2月の1カ月だけで13件(7事案)に上る。13年度は45件(18事案)あるが、1事案で17件(17社)一斉に措置命令を受けたものもあるので、事案としては特別多くない(注1)。
今年1月は1件もなかったが、それにしてもハイペースの措置といえる。もちろん、違反事例が多いことがこうした結果になっているのだが、それ以外にも消費者庁の「今のうちに摘発しておこう」という思惑があると筆者は見ている。
景品表示法は、昨年の国会で「課徴金制度の導入」が決まった。今までは景品表示法違反で措置命令を受けても、単なる行政処分なので罰金を納める必要はなかった。ところが課徴金制度は、措置命令を受けると原則、課徴金を支払わなければならない。課徴金は罰金と同じようなものだが、国に支払う金額が違反対象売り上げ金額に比例していることが罰金と大きく異なる。罰金は最高で1億円までといった限度額があるが、課徴金は違反商品の売り上げ金額に比例するので、いわゆる青天井になる。
課徴金の算定率は3%であり、例えば措置命令を受けた対象商品(簡単にいえば消費者をだまして稼いだ金額)が10億円であれば、支払う課徴金は3000万円、50億円(注2)なら1億5000万円になる。「調査会社の富士経済の推計では、14年の市場規模は身体に装着するものなどを含む虫除け剤全体で約219億円」(1月17日付日本経済新聞より)という。今回の大手4社で、措置命令の対象商品は合計30商品になる。これが、課徴金制度が実施された後に摘発されていれば、億単位の課徴金になるだろう。
実は、課徴金制度の実施は決まっているが、法律が施行されるのは今年春か遅くとも年内中と考えられている。施行前ならどれだけ措置命令を受けようが、行政処分だけなので企業にとってはそれほど痛くはない。これが、課徴金の支払いが伴うとなると損害は大きくなる。大手企業であれば商品開発にそれなりの投資をし、広告宣伝にもかなりの費用をかける。施行前と後では、措置命令を受ける企業側にしてみると天と地ほどの差がある。
それを消費者庁は百も承知している。同庁は企業の負担を少なくするために、法律施行前に駆け込み摘発をしているのではないだろうか。特に、負担金額が多くなると思われる大手企業の商品は、優先的に調査し、早めに措置命令を出そうとしているように思えてならない。●誰のための摘発か
もう一つの消費者庁の思惑は、「どんな大手でも摘発するぞ」という企業への警告と、「こんな事例も違反になるよ」という事例発表をして、企業が失敗しないようにガイドラインを示しているのである。
実は、それはもう1年前に始まっている。消費者委員会で、課徴金制度の導入が検討されている最中の14年3月、二酸化塩素を利用して生活空間での除菌や消臭効果をうたった商品が「根拠がない」と措置命令を受けている。一度に17社の商品を摘発したのは、消費者庁が創設されて以来、初めてのことだ。
この摘発も、課徴金制度導入を見据えた消費者庁が、大手企業へ「そんなあいまいな根拠だと、次は罰金を取るぞ」と警告をしたと考えるべきだ。「処分の対象のうち、売り上げが多いという『クレベリンゲル』を販売する大幸薬品が、除菌・消臭の効果を実証するため、2012年度までの5年間に9億円以上の研究開発費を投入した」(14年4月9日付読売新聞より)としても、消費者庁は「それが一企業の実証だけでは不十分だ」と言っているのである。
一見、消費者のために不当表示を相次いで摘発しているかのように思ってしまうが、実は企業のために「早めの摘発と警告をしている」のだ。消費者庁の存在価値は、課徴金制度が導入されてから、どのくらい摘発できるかにかかっている。本当に消費者のための消費者庁に変わることができるのか、しばらくは見守っていきたい。
(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)
注1:14年3月、1事案(二酸化塩素を利用した空間除菌を標ぼうするグッズ)で17社に措置命令が下されたが、その場合、措置件数は17件になる
注2:13年12月、「寝ている間に勝手にダイエット」と表示していたサプリメント「夜スリムトマ美チャン」は、2年間で約50億円の売り上げがあったとされている