ヤンキースのブライアン・キャッシュマン・ゼネラルマネジャー（ＧＭ、４７）の特別アドバイザーに就任することが決まったＯＢの松井秀喜氏（４０）が１１日（日本時間同日深夜）にフロリダ州タンパのキャンプ地で就任会見を行った。「少しでも組織の力になれるようにしたい」と改めてヤンキース愛を語った松井氏。しかし、夕刊フジ評論家の須藤豊氏は「松井氏は巨人の監督から逃げることはできない。本人の好むと好まざるにかかわらず、今回の仕事を巨人監督の修行とするべきだ」と直言している。

　契約期間は１年。日米を通じて球団に常勤で所属するのは２０１２年の現役引退後初めてとなる。傘下マイナーの試合を巡回して視察し、監督、打撃コーチらとともに打撃指導をするのが役目。現役時代に背負った「５５」のユニホーム姿も披露されることになる。

　「ヤンキースで素晴らしい時間を過ごした。貴重な機会をいただいたので若い選手の指導で組織の力になっていきたい。僕にとってもかなり大きなチャレンジになる」

　松井氏は、目を輝かせながら、ヤンキースのフロントとしての抱負を述べた。

　ヤンキースは松井氏に対してこれまでに何度もヤンキースに戻ってほしいとの意思を伝えていたという。巨人が監督就任のラブコールを送り続けているのと同様だ。

　キャッシュマンＧＭは「この冬、松井にチームで大きな役割を果たしてくれないかと話し合った。子供が生まれたばかりだが、彼はヤンキースという組織にとって素晴らしい人材であると考えてきた」と説明した。

　松井氏は巨人よりヤンキースを選んだかたちになる。この日の会見で将来、監督、コーチなどの指導者になる意思があるかどうかを尋ねられた松井氏は、改めて白紙であることを明言した。

　「もし、そうなったときに今回の経験が生きればいいと思うが、現時点では具体的に考えていない」

　キャッシュマンＧＭのこんな発言もあった。「今後彼の役割が広がっていく可能性はあるが、現時点で彼のメジャーの打撃コーチという構想はなかった」。松井氏も「スペシャルアドバイザーですが、スペシャル通訳がいなくても大丈夫なようにやっていきたい」と話し、笑いを誘ったが、やはり言葉の壁は想像以上に大きいということだ。

　ニューヨークメディアは松井氏のフロント入りに歓迎ムード。「ザ・リターン・オブ・ゴジラ」の見出しを踊らせたメディアもある。日米で愛され続ける松井氏の担っている役割は一体何だろうか。

　松井氏には巨人も次期監督含みで入閣のラブコールを送り続けてきた。昨年１月にも、読売新聞東京本社内で渡辺恒雄球団最高顧問、白石興二郎オーナー、長嶋茂雄終身名誉監督、松井氏が“４者会談”。巨人サイドは「『巨人は両手を開いて待っているよ』ということは言っておいた」（白石オーナー）という。

　その巨人より先に、ヤンキースで肩書を得た意味は大きい。

　元巨人ヘッドコーチで松井氏とも親交の深い須藤氏は「巨人に帰るにはまだ準備期間が必要ということだろう」と言う。

　「頭のいい人物だから、現指揮官で毎年好成績を出し続けている原監督への気づかい、葛藤もあるのだろう。実際、後任として松井の名前を出されながら指揮を執っている原の立場は精神的にきつい。松井にとって、ヤンキースはいましばらく時間を過ごすのには格好の場所だ。ヤンキースであれば、日本のファンも納得するから」と続けた。

　とはいえ、“生涯ヤンキース”というわけにはいきそうにない。須藤氏は「一生逃げ回るわけにはいかない。いずれ巨人の監督を引き受けなければならない立場だし、本人もそれは承知していると思う。その時は、国民栄誉賞を受賞した松井がもう１度勝負の世界に身を置き、世間の批判にさらされるときでもある。あの王貞治氏（現ソフトバンク球団会長）も、同じく国民栄誉賞受賞後にダイエー（現ソフトバンク）監督に就任し、負けが込むと移動中のバスにファンから生卵をぶつけられた。だからこそ、家族の意向も含め覚悟を決めるのに時間がかかるのも無理はない。私見だが、あと３年は巨人のユニホームを着ないのではないか。その間、原監督率いる巨人がどういう戦況になり、読売首脳が次期監督をどう考えるかだろう」とみる。