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女性農業者がその存在やアイデアを全国に発信しつつ、企業と連携して新しいビジネスも生み出そうという、農林水産省提唱の「農業女子プロジェクト」が、11月で2年目に入った。
主役である「農業女子」メンバーは、開始時の37人から209人と5倍以上に増えた。参加企業数も開始当初の9社が途中で13社となり、今月から新たに6社が加わって19社体制になるなど、2年目に向けてパワーアップした。
同プロジェクトは、企業と連携した個別プロジェクトの推進、女性たちのプラットフォームの強化、広報宣伝活動を三つの柱に昨年11月にスタート。個別プロジェクトは、費用を参加企業が負担し、その代わりに女性農業者の知恵を拝借するという形で進められ、女性農業者と企業の話し合いで「8色の軽トラック」(ダイハツ工業)、「ドレッサー付きバイオトイレ」(レンタルのニッケン)など話題の新商品が発売されたり、農業機械の使い方(井関農機)や日焼けで肌が荒れないための講習(コーセー)が企業側から提供されたり、と様々な「成果」を上げてきた。
また、メンバーらは主にインターネットを積極的に活用し、自らの情報や「農業女子レシピ」などの情報を発信してきた。さらに、メンバー同士での情報交換によるネットワーキングも強化し、北海道若手女性農業者集団「LINKS」と連携したり、地域版「おかやま農業女子プロジェクト推進会議」を岡山で開催したりもしている。
こうした中、今月5日、2年目に入る最初の会合として、「農業女子プロジェクト推進会議」の第3回が東京・丸の内で開かれ、女性メンバーのうち15人と連携企業、サポーターらが参加した。会議では、西山美貴さん(山口県美弥市)が「家族で農業をやっていると孤独な部分もあるが、プロジェクトに参加して楽しいし、同じ悩みを話せてぱっと開けた気がした」、石渡礼奈(れな)さん(神奈川県三浦市)が「農家の長男と結婚して就農し、農業はつらくて大変なイメージがあったのが、やってみると子育てと同じで手をかけるほど育って楽しい。ごくフツーの農家の嫁さんだが、この楽しさを知ってほしい」など、メンバーが次々に発言。
また、新規に参加した連携企業からは「汚れた作業着も楽しく洗える洗濯方法の創出」(東邦)、「農作業と家事、育児を両立して豊かに暮らせる住まい」(東洋ハウジング)などのアイデアが発表された。
また、この日は、1年目の最後のプロジェクトお披露目にあたる、タニタとコーセーが協力して取り組んだ「農業女子ブリリアントボディー化計画」の成果発表も行われた。7月から3か月間、1日の総消費カロリーがわかる活動量計や体組成計による計測、食事や運動のアドバイスを行った結果、20人の候補者の中から松本知恵さん(群馬県藤岡市)、古沢昌子さん(栃木県塩谷町)、星野美樹さん(群馬県昭和村)が優秀者として選ばれた。
タニタでは「女性農業者は一般女性より筋肉量が平均1キログラム多く、おなか回り(体幹部)が引き締まっている。さらに意識した人がいい結果を出した。自己管理能力と継続性が農業女子から学ぶブリリアントボディーの秘訣(ひけつ)」としている。
このほかの連携企業は以下の通り。▽エイチ・アイ・エス(農業女子訪問ツアーなど)▽東急ハンズ(家庭菜園や野菜を使った加工品などのワークショップ)▽日本サブウェイ(野菜が喜ぶメニュー開発)▽モンベル(快適でファッショナブルな農業用作業衣)▽リーガロイヤルホテル東京(農業女子プロデュースの宿泊プランなど)▽サカタのタネ(野菜の魅力・楽しみ方の発信)▽丸山製作所(草刈り作業の応援)▽三越伊勢丹ホールディングス(マルシェ開催)▽(以下、新規参加)NHK出版(NHKテキストとの相互情報発信)▽シャープ(農作業小屋の職場環境改善)▽パソナ農援隊(未来の農業女子育成など)▽ローソン(農業女子の野菜・果物の店舗での展開)
昨年春、安倍政権が「女性の活躍」を言い出し、それを受けて急きょ始まったこのプロジェクト。近年流行の「女子」を使ったネーミング、企業が費用分担と引き換えに女性農業者のアイデアをタダで拝借する形、と、既存のお役所事業とは違った取り組みで進められてきた。農林水産省は、専ら情報交換の場所やきっかけの提供役を務めている。
1年前に担当者に質問した時は、「2年目以降がどうなるかはわかりません」と説明されたプロジェクトが、メンバーも参加企業も発足時より大幅に増やして2年目に入ったというのも、ある意味感慨深い。
連携企業は原則1業種1社で参加のため、プロジェクトの内容が他社と重なることなく展開でき、会社の新商品・サービスを役所のお墨付きでPRできる。女性農業者側はいろんな商品やサービスを試用できる。このWIN‐WINがうまく作用したようだが、一方で、「女性農業者自身でアイデアを生かす機会を奪っていないか」「チャラチャラして」などの批判も寄せられているようで、プロジェクト1年間の「成果」に関しては賛否両論の様相だ。
また、「農家の嫁」「子育て、介護との両立」「農家の経営」など、困難とされる既存の課題がこのプロジェクトで解決に向かったという話は今のところ聞こえてこない。
ただ、昨年11月、今年3月、今月、と計3回の「農業女子プロジェクト推進会議」の様子を取材で見てきた。そこには、農家の嫁であり、跡継ぎ娘であり、あるいは農業法人の被雇用者であり、と形は異なるものの、農業経営の立役者として堂々と発言する女性たちの姿があった。地方での類似の会合で、大半を世帯主、経営主の男性が占める会議を見てきた目には新鮮で、その女性版で何が悪いのか、という気がする。
また、企業側がこのプロジェクトに参画するのは、そこに、ニッチなビジネスチャンスがあると読んだからだろう。裏返せば、女性農業者のニーズ自体がこれまで汲(く)まれてこなかった。基幹的農業従事者の42%を占めるにもかかわらず、だ。特に母親になると自分のことは後回し、自分の健康を考え、きれいに磨く時間など作り出せないという農家の女性は少なくない。今回、そうした側面に日が当たったことは評価できる。
ちなみに、「2040年までに全国の市区町村の半分が消滅する」という報告書をまとめた増田寛也元総務相の近著「地方消滅」でも、必要な対策として農業における女性の役割の重要性に言及し、農業女子プロジェクトにも触れた上で、「農業経営や農村に変革をもたらす次世代リーダーとして、女性が活躍できる環境を整備すべき」としている。
また、プロジェクトでは、フェイスブックなどインターネット利用で、女性農業者同士のネットワークが広がった。東京を拠点に発進したプロジェクトだが、今度は地方を舞台に広がりそうな気配もある。今後も女性農業者たちが政府や企業の思惑とうまく渡り合い、自分たちの可能性を開いていくことを期待している。
(メディア局編集部 京極理恵)