社会そのほか速
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「ヤラセ」とは、事実を捏造しながらもそれを隠し、あたかも事実であるかのように見せることだ。この言葉が一般化したのは、もう30年も前のこと。当時平日正午に放送されていたテレビ朝日系のワイドショー番組『アフタヌーンショー』において、少年暴力犯罪を捏造して報道したことが明るみに出たことがきっかけである。この事件を機に、当該番組ディレクターは逮捕、懲戒解雇となり、20年も続いていた長寿番組も打ち切りとなった。
ヤラセが発覚することで、そのテレビ局の信用も社会的評価も著しく低下してしまうにもかかわらず、現在もヤラセはなくならない。最近ではTBS系のバラエティ番組『水曜日のダウンタウン』において、100円ショップの福袋が売れているにもかかわらず「1袋も売れなかった」と報道したことで、局が謝罪に追い込まれた。
そうしたテレビにおけるヤラセへの批判が高まる中、最近では「ガチンコ」を売りにするドキュメンタリー番組が好評を博しているようだ。
例えば、フジテレビ系で不定期放送されている『ハンゲキ!』という番組。視聴率低迷が叫ばれるフジの番組の中で、毎回平均視聴率10%を超える隠れた人気番組となっている。これまで3回放送されているが、共通しているのは、「被害者である依頼人が悪徳業者・詐欺師の調査を依頼し、弁護士と探偵事務所が調査、報告。そして被害者と調査対象者が直接対決する」という内容構成である。
直近では3月10日に放送された。複数の弁護士と探偵が依頼人の依頼を受け、詐欺の犯人を追いつめる、その克明な様子を生の映像を主体に展開し、最後は犯人を降参させる、という内容は実に刺激的で、ほかではなかなか見ることのない迫真の展開であった。
しかし、こんなに都合の良い映像が果たして本当に撮れるものなのだろうか? インターネット上で「ハンゲキ ヤラセ」で検索すると、多くの結果がヒットする。「すごく面白い」「ハンゲキに夢中」という評価がある一方で、「面白いが、ヤラセにしか思えないな」「プロの詐欺師がすんなり弁護士に同行し、カメラの前で罪を認めるかな」といった疑問の声も上がっている。
●二次被害の恐れ
犯罪系ドキュメンタリー番組制作スタッフとして、テレビ業界内の高い評価を受けているA氏は語る。
「法律監修に弁護士も入っていますし、映像から判断してヤラセなどは考えられないでしょう。なかなか迫真の映像で、私でも感心する場面が多々あります。よくできた番組だと思います。ただ、気になる点があります。同番組は内容の完成度を上げるため、犯人と被害者の直接対決を最後に持ってきています。これは法律上の問題はありませんが、極めて危険な行為です。出演している弁護士や探偵は、番組終了後も継続して被害者を守ることができないからです。警察も逮捕していませんし、犯人は逮捕されたとしても短期間で社会復帰してきます。つまり、犯人が犯罪者から逆恨みの行為を受ける可能性が高いので、通常はこのような犯罪ドキュメンタリー番組では、必ず被害者の存在を隠し、案件が特定されないようにします」
また、別のテレビ局関係者B氏は次のように指摘する。
「『ハンゲキ!』を手がける制作チームは、とにかく刺激的な映像を持ってくるのですが、視聴者からのクレームも非常に多い。あまりのクレームの多さでフジ以外のテレビ局でも、このチームの映像は扱わないと決めている番組があるほどです」
このほかにも、犯罪の専門家C氏は語る。
「フジ系の『ニュースな晩餐会』内で、このチームが手がけたストーカー事件の映像が放送されていたのですが、犯人が逮捕もされていないのに、加害者と思われる人物が特定できるような内容でした。これは、被害者を非常に危険な状況にさらすことになります」
確かに、犯罪者である詐欺師やストーカーを追い詰めるという演出は、テレビ番組としては衝撃的で面白いかもしれない。しかし、テレビという公開メディアで本当に犯人を追い詰めた後で、被害者がなんらかの二次被害を被ってしまうような事態はあってはならない。
前出のA氏も述べるように、弁護士や警察も常に被害者を守り続けてくれるわけではないため、実際の案件が特定できないように配慮しなければ、被害者には常に危険がつきまとうことになるのだ。
『ハンゲキ!』内で弁護士は「弁護士をなめるな!」と叫んでいたが、犯人をなめることがどれだけ危険な行為なのか。フジは同番組の制作をめぐり、十分な配慮が求められているといえよう。
(文=新田 龍/株式会社ヴィベアータ代表取締役、ブラック企業アナリスト)