社会そのほか速
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「僕、お風呂を一緒に入れるのってヒロくんしかいないです、世の中に」
稲垣吾郎は堂々とそう告白した。同じベッドで寝たこともあるという。
「ヒロくん」とは、いったい何者なのだろうか?
2009年の『さんま&SMAP!美女と野獣のクリスマススペシャル』(日本テレビ系)で初めてその存在が公にされ、14年の同番組でさらに詳しく語られた。そして、15年1月10日放送の『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系)で話したことで、SMAPファン以外にも広く知られることとなった。
しかし、「50歳くらいの既婚のサラリーマン」「週2回くらいのペースで稲垣の自宅にやって来る」「稲垣の自宅にはヒロくん専用の部屋がある」などと断片的に語られるエピソードでは、ヒロくんがいったい何者なのか、そもそも2人はどんな関係なのか、謎は深まるばかりだった。男同士が半同棲生活を続けている、ということもあり、「同性愛疑惑」もささやかれていた。
そんな中で3月23日に『SMAP×SMAP』(同)の枠で放送された特別番組が『中居正広のISORO』だ。冒頭の稲垣の告白はこの番組で飛び出したものだ。番組は、稲垣が、ヒロくんの自宅を訪れ、“居候”する様子を追いかけたものだ。
ヒロくんと稲垣が出会ったのは99年。共通の知人の紹介だったという。だが、3人で会っても、ヒロくんはその知人と会話するばかり。何度か会っていくうちに、耐えられず稲垣がヒロくんに尋ねた。
「もしかして僕のこと嫌いですか?」
「ジャニーズとか苦手なんだよね」
その会話が、仲良くなったきっかけだったという。2人は急速に信頼し合うようになり、稲垣が新居を選ぶ際にはヒロくんも同行。「これだけ広ければ、ここで遊べるよね」というヒロくんの一言で新居を決めた。以降、週の半分をお互いの家を行き来し、「ヒロくん」「ごろち」と呼び合う関係になったという。
「テレビ、これでいいのか?」
普段通りの会話ゆえ、妙な間が入ったりするし、特に何かが起こるわけでもない。ヒロくんの自宅で過ごす2人のVTRを見た中居が、思わずそう言った。
そんな中居を尻目に、「仲良さそう。見てて安心する」「不思議な感じ」などと無邪気に語る稲垣は新鮮だ。
「見たことないもん、こんな吾郎」と、中居も言う。確かにVTR中の稲垣は、これまでのイメージとは異なる新たな一面を見せていた。デビューから25年以上経って、常に第一線で活躍し続けてもなお、こうした新たな一面をのぞかせることができる。そして、このなんでもないVTRで視聴者を惹きつけることができるSMAPの強さを、あらためて感じた。
「結婚しないのか?」と問われた稲垣は「『大切な存在』(=ヒロくん)がいるから、それを認めてくれる女性じゃないとできない」と、サラッと言った。それに対し、中居は「『大切な存在』なんて、歌詞やドラマの世界だけの言葉だと思ってた」と驚きを隠さない。
「でも、言葉で伝えたらすごく気持ちよくなってくると思いますよ。僕もこういうふうに認め合うことを前はしてなかったんですけど、いま普通に言えるようになって気持ちいいですもん、やっぱり。楽だもん。そういうもんなんだなって。絆というか愛というか。やってみなよ、みんなも。大切な存在、いるはずだよ!」
と語っているうちに興奮した稲垣は、カメラに向かって呼びかけるのだ。
「伝えてみなよ! 声に出してみなよ! すごく楽になるよ!」
「どこまでエンタテインメントにするかということについては、非常識を常識にするということに関して、僕らは腹をくくる準備と覚悟はあった」(『AERA(13年5/6・13)』)
と中居は語っている。かつて、アイドルは文字通り偶像だった。“お人形”であることを求められた。だが、80年代に入り、アイドルは“自我”を持ち始め、80年代後半には、同じ“人間”であり、手に届く存在であることが強調されるようになった。いわば、アイドルの“人間宣言”である。その流れの中で、SMAPはさらにそれを一歩進めた。アイドルではタブーとされてきた下ネタや恋愛話を語り、失敗話や自らのダメな部分を晒すようになったのだ。言ってみれば“ダメ人間宣言”である。
そうしてSMAPは新たなアイドル像を提示することで、アイドル界のトップに立った。一方で中居には「エンタテインメントにする」ことへの明確な線引きがある。たとえば、この番組でも、稲垣とヒロくんがイチゴ狩りに行って、あーんとイチゴを食べさせ合うVTRを受けて、稲垣があーんとイチゴを中居の口に運ぶと、頑なに拒否。
また、次回の“居候”先に稲垣が「SMAPのヒロくん」、すなわち中居正広を提案すると、「そこに僕の中のエンタテインメントは入ってませんから」と真顔で退けた。
あるいは、昨年の『27時間テレビ』(同)では、「解散」について赤裸々に話す香取に対して、中居が「そのチャックは開けたくなかった」と言ったこともある。中居にとってその部分は、アイドルという“着ぐるみ”を維持するためのギリギリのライン、すなわち“チャック”だったのだ。それに対し、稲垣は言う。
「チャックは開けてなくても透けて見えたりするもの」と。
VTR中、「2人はチューくらいできるの? 本当のところどうなってるの?」と問われた稲垣は、静かにほほえんで言った。
「本当のところなんて、言うわけないよね」
そうしてヒロくんの素顔まで晒した番組でも、肝心な核心部分は煙に巻いたまま終わった。半同棲するほど親密な2人の関係だからといって、必ずしもそこに恋愛感情があるわけではない。それがあってもいいし、なくてもいい。何でつながっているかなんて、当人以外は「本当のところ」分からない。その「分からなさ」は、そのままエンタテインメントであり、アイドル性だ。「分からない」からこそ、無限に可能性を広げてくれる。
最後に以前、歌人の枡野浩一が『ゴロウ・デラックス』(TBS、15年1月22日放送)で稲垣に捧げた短歌を紹介したい。
「『両方って人もいるよね』両方に夢を与える稲垣吾郎」
(文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy)